ビートルズ特集


WITH THE BEATLES (1963)

 楽曲紹介[2]


"Hold Me Tight"

 "Hold Me Tight" は一転してポールをメインに据えたナンバーである。アルバムのライナーノーツ (日本語解説) によると、もともとデビューアルバム用にレコーディングされたものが選曲にもれたために本作へ回されたとのことだが、ポールのボーカルとベースラインを主体とする曲の構成が "I Saw Her Standing There" に似すぎていたために、ジョージ・マーティン(3) "Please Please Me" へ加えることをためらったのではないかと想像される。全編に付されたハンド・クラップが、曲の展開にあわせて特徴あるリズム感を生み出している。 また、かなりクセのある旋律は、後にファンの間で「ポール節」とも呼ばれるマッカートニーお得意のパターンだが、公式なビートルズ・ナンバーとしての披露はこの曲が最初であろう。

"I Wanna Be Your Man"

 "I Wanna Be Your Man" は、ジョンとポールがローリングストーンズ(4) のために共作したナンバーとして知られている。ミック・ジャガー(8) と比較されてはさすがに分が悪いと感じたのか、この曲でリード・ボーカルを任されたのはリンゴ・スターである。なお、"Live At The BBC"に収録されたこの曲を聴くと、想像以上にソウルフルなリンゴのボーカルに驚かされる。いきさつはどうあれ、リンゴにとっては初めてのオリジナル・ナンバーによるリード・ボーカルであり (カバー曲ではシュレルズの "Boys" や、"Live At The BBC" にも収録されたカール・パーキンス の "Matchbox" がある)、それまでの鬱憤を晴らすかのような意気込みがあったのかもしれない。

"Not A Second Time"

 "Not A Second Time" では、他の曲とはやや異なる一面でジョンの成長をうかがうことができる。ジョンが、他のメンバーと比較して言葉のリズムをメロディに乗せる才能に長けていることは様々な作品で実証済みだが、この曲にもその一端があらわれている。"cry", "why", "mine" といった韻の踏み方や、"I'm wondering why....." での W の音の合わせ方、また、"No, no, no, no, not a second time" というフレーズの締めくくりなどを聴くと、言葉のリズムをごく自然に旋律に埋め込んで効果 的に聴かせる術を、すでにこの当時から発揮していたと認めざるを得ない。

 また、"Not A Second Time" については、発表直後にタイムズによってマーラーの「大地の歌」(9) との類似点を指摘されたことに触れざるを得ないが、ジョン・レノン本人はこの点について完全に否定し、まったく取り合っている様子はない。ただし、このエピソードは、ビートルズの音楽が、すでにこの時点において単なる流行ポップスの枠を超えたところで議論され始めたことを伝えるものと考えられる。

 


"Till There Was You"

 以上のオリジナル曲に加え、アルバムには6曲のカバーが収録されているが、ここではその中から "Till There Was You" を取り上げておきたい。「ミュージック・マン」というミュージカルから選ばれたこの曲は、それまでのカバー曲の特徴であったモータウン(6) やロックンロールとは明らかに一線を画するものである。リード・ボーカルを担当するポールの好みによるものと推測されるが、この先にポールが発揮することになる音楽的な間口の広さと、これを違和感なく受け入れることでさらなる高みへと飛躍するビートルズの曲作りにおける貪欲さを予告したナンバーと言えるのではないだろうか。

 

"Roll Over Beethoven"

 また、チャック・ベリー"Roll Over Beethoven" は、ジョージ・ハリスンが1991年にエリック・クラプトン(10) を伴っておこなったジャパン・ツアー(11) の際にコンサートのラストを飾ったナンバーである。日本のジョージ・ファンにとっては、とりわけ思い出深い曲と言えるかもしれない。

 

以上 "With The Beatles" 終わり

 注) 文中で紹介した資料のほか、以下の文献を参考にしている。

 ・アルバム全体でシンバルを多用している理由については、レコード・コレクターズ増刊「ザ・ビートルズ コンプリート・ワークス1」(1998年) における和久井光司氏の評論を参考にした。

 ・"Not A Second Time"「大地の歌」の関連についてのエピソードは、マイルズ編・吉成伸幸訳「ビートルズ伝説」(シンコーミュージック 1986年) を参考にしている。

 

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