1926年、米国カリフォルニア州生まれのロックンローラー。ブルースやカントリーをベースとする音楽スタイルに力強くビートを刻むロックンロール特有のリズム感を重ね合わせることで、新時代の音楽とも言うべきロックの様式確立に向けて大きな足跡を残した。
(なお、彼の生誕地には異説がある。多くのバイオグラフィは、前記のとおりカリフォルニア州サンノゼを彼の出身地として紹介しているが、チャック・ベリー本人は、自らをミズーリ州セント・ルイスの出身と主張している)
ピアニストのジョニー・ジョンスン、ドラマーのエビィ・ハーディとともに、ザ・チャック・ベリー・コンボを結成して活動中だったチャック・ベリーは、1955年にシカゴでマディ・ウォーターズと出会ったことをきっかけに飛躍のチャンスを掴む。この年に、マディの紹介で、シカゴ・ブルースの名門、チェスと契約に至ったチャックは、デビュー・シングル「メイベリーン ("Maybellene")」のリリースを実現させる。
この曲が、全米チャートのリズム&ブルース部門において11週連続の第1位 というメガ・ヒットを記録したチャック・ベリーは、一躍、チェスの看板スターの一人としてその地位 を確立する (「メイベリーン」は、全米チャートのポップス部門においても第5位 へランクインしている)。
チャック・ベリーは、その後においても「サーティ・デイズ ("Thirty Days")」(1955年)、「ロール・オーバー・ベートーベン ("Roll Over Beethoven")」(1956年)、「トゥ・マッチ・モンキー・ビジネス ("Too Much Monkey Business")」(1956年)、「ジョニー・B・グッド ("Johnny B. Goode")」(1958年) に代表される数多くのヒット曲を連続して生み出し、また、これらの曲が英米の多くのロック・バンドにカバーされたこともあってカリスマ的なロックンローラーとしてその名声を高めていく。
ロックンロールの巨人とも呼ばれるチャック・ベリーだが、彼がロックの歴史に残してきた功績について語るにはあまりにもスペースが少ないので、ここでは以下の2点だけを簡潔に記しておきたい。
第一に、ロックと呼ばれる音楽形式の中で、歌詞の持つ重要性の確立に貢献したことである。チャック・ベリー以後のミュージシャンによる作品も含め、その大半が単純なラブ・ソングによって埋め尽くされてきたロック史の中で、チャック・ベリーの残した楽曲は、そのいずれもが特異な立場を占めるものと言ってよい。そもそもベリーの曲は三人称の形式で歌われることが多いのだが、一人称で書かれた作品であっても、彼の曲には豊かな叙情性と深いストーリー性が盛り込まれている場合がほとんどである。また、詩の題材として選ばれる内容もバラエティに富み、聴き手を飽きさせることがない。
ジョン・レノンがチャック・ベリーについて「彼はロックの詩人だ」と発言していることも含め、チャック・ベリーが、ボブ・ディランやポール・サイモンより以前に、ロックにおいて歌詞が持ち得る可能性の深さを実感させたミュージシャンであったことは疑う余地がなく、後に続く多くのソングライター達に多大な影響を与えた先人の一人であることは否定できない事実と言える。
第二に、エルビス・プレスリーやバディ・ホリーの登場に伴い、ロックンロールという新たな音楽様式の息吹を感じ始めていた時代の潮流を背景に、ピュアなブルースからロックンロールへの橋渡しという歴史的な役割を担った点を見過ごすことはできない。
デビュー曲の「メイベリーン」にしても、アップテンポでビートを刻み続けるロック・ナンバーであると同時に、個々のフレーズや、間奏部分でのギター・ソロ、また、ギターと折り重なるようにして流れるベース・ラインなどからは、明らかにブルース・ナンバーとしての特徴を読み取ることができる。(マディ・ウォーターズは、ブルース・レーベルのチェスへ紹介するにあたり、チャック・ベリーの音楽を「新しいスタイルのブルース」と捉えていた可能性もある)
言い換えれば、チャック・ベリーの楽曲そのものがブルースとロックの双方の魅力を兼ね備えた音楽と考えられ、そのゆえに、彼のナンバーの多くは、60年代以降のブルース・ロックを愛好する英米のロック・バンドとそのリスナーによって熱烈に受け入れられることで、60年代半ばを過ぎて開花していく巨大なロック音楽のマーケットを確立する礎の一つとも成り得たと言い得るであろう。
チャック・ベリーの音楽に魅せられ、一時的であれ、そのフォロワーとして活動したミュージシャンは、「ロックンロール・ミュージック」他をカバーしたビートルズ、チャック・ベリーのカバー曲によってデビューしたローリング・ストーンズ、「メンフィス」他をカバーしたアニマルズ、「ジョニー・B・グッド」をカバーしたジョニー・ウィンターやグレイトフル・デッドなど、挙げ続ければきりがないほどである。
チャック・ベリーは、残念ながら、最近のロック・ファンからは顧りみられることの少なくなったミュージシャンかもしれないが、その足跡が示す歴史的な意義は決して軽いものではない。加えて、今日のロックと聴き較べても、楽曲のアイディアや演奏のクオリティが古さを感じさせることはなく、彼のナンバーの多くは、つねに新たな感動をもって聴き手に迫るだけの時代を超えた魅力を放ち続けている。
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