ビートルズ特集


A Hard Day's Night (1964)

楽曲紹介[1]

 

"A Hard Day's Night"

 マシンガンのように打ち鳴らされるロックのビートに乗せて、ジョンのダブル・トラック・ボーカルが炸裂する。ボーカル・パートは、ジョンのダブル・トラックにポールのコーラスが重なる部分を経て、ポールのソロ・パートへ引き継がれる。ポールのボーカル・パートでは、ジョンのパートに対してリズム・セクションに変化が加えられている。曲は、その後、ジョージ・マーティン(3) のピアノとジョージ・ハリスンのギターによるユニゾンの間奏部分を経て後半へ進み、ギター・フレーズのフェード・アウトが印象的なコーダを迎える。サウンド面 のみならず、構成力のうえでも、前作までのアルバム収録曲と比較し、段違いといえるほどの成長を見せつけるナンバーである。

 なお、"Live At The BBC"に収録されたこの曲を聴くと、アルバム収録のテイクと比較してリズム・セクションの変化が乏しいのみならず、間奏部分では録音テープが使用されていることがわかる (間奏部分のみ明らかに音質が異なる)。事情がわからないため明言することは難しいが、このナンバーあたりから、すでにビートルズの意識はライブ・パフォーマンスよりもスタジオにおけるレコーディングへと明確に向かっていたのではないかと推測される。

"I Should Have Known Better"

 ジョンのボーカル、ポールのベース、リンゴのドラムスによって曲の骨格が形成されるが、アコースティックとエレクトリックの2本のリズムギターによる細やかな表情の変化も軽視することはできない。アコースティックによるリズムギターは曲の全編で聴くことができるが、決して単調ではなく曲の展開によって微妙な変化がつけられている。ミドル・パートのみで登場するエレクトリックのリズムギターも、曲のイメージを膨らませるうえで隠し味的な役割を果 たすものと言える。

 ジョンが担当するボーカル・パートはほとんどがダブル・トラックで録音されているが、ギターソロの間奏が入った後に登場するミドル・パートの前半部分のみがシングル・トラックによる録音である (And when I ask you to be mine の後の a ha ha の部分からダブル・トラックに戻る)。ビートルズが、単純に音を厚くする目的でダブル・トラック・ボーカルを用いているのでないことは、この点からも明らかである。

"If I Fell"

 ジョンのアコースティック・ギターによる弾き語りにジョージがエレキギターでリズムを添える序奏部分から、リンゴのドラムスが印象的に加わる瞬間を経て曲の本編が開始される。リチャード・レスター監督(12) による同名映画の中では、スタッフにドラムセットを触られて機嫌を損ねたリンゴに対し、ジョンが優しく歌いかけることでリンゴも気分を取り直してドラムを叩き始めるというシーンで使われていた。映像の伝えるストーリーが、曲の展開に無理なくシンクロした秀逸の場面 と言えよう。

 主にジョンが作ったと言われるこの曲の旋律とコーラスは、ビートルズの全曲を通 じても屈指の美しさである。ジョンによるバラッド・スタイルの作品としては、"Julia" に始まり、ソロ時代の "Love" を経て "Grow Old With Me" (13) "Real Love" (14) に受け継がれる作風が知られているが、これらの作品はいずれもオノ・ヨーコ(15) と出会った後に確立されたスタイルによるものであり、ヨーコ以前のジョンによるラブ・バラッド作品として、この曲はジョンの貴重な一面 を伝えている。 

"I'm Happy Just To Dance With You"

 ジョンの作品だが、リード・ボーカルはジョージ・ハリスンがつとめている。ジョンによれば、最初からジョージに歌わせる意図を持ってこの曲を書いたとのことだが、前作で初めてのオリジナル・ナンバー "Don't Bother Me" を発表したものの、その後自らのスタイルを確立できずに模索していたジョージを励ますために作られた曲ではないかと想像される。

 ボーカル・パートを他人に任せたからでもないだろうが、この曲におけるジョンのリズムギターによる活躍は特筆ものである。言葉での表現は難しいが、他の曲では聴くことのできない特徴的なリズムを刻むことによって、この曲の印象を決定づけている。ジョンのリズムギターは、コーラスが加わるミドル・パートを除き、全編の主題部分で、ダブル・トラックによるジョージのボーカルをサポートするかのごとく躍動する。

 

"And I Love Her"

 ポールお得意の美しい旋律に乗せて展開されるスローナンバー。シンプルな曲との印象を受けがちだが、レコーディングは複雑である。イントロに続くポールのダブル・トラック・ボーカルによって曲はスタートするが、2回目の主題部分でアルペジオのギター伴奏が加わる。その後、最初のミドル・パートを経て主題に戻るのだが、この時の前半のボーカル・パートはシングル・トラックによる録音である (I know this love of mine..... からダブル・トラックに戻り、その後は最後までダブル・トラックで歌われる)。また、ギターソロの間奏が入る直前で、ポールのベース音を合図に転調する瞬間が鮮やかである。

"Tell Me Why"

 ジョンの作品で、ボーカルもジョンが担当している。ダブル・トラックのボーカルでスタートするこの曲は、リード・ボーカルとトリプル・トラックによるコーラス部分との掛け合いに転じるが、その後に登場するファルセット・ボイスによるコーラス・パートも含め、ボーカルはすべてジョン・レノン一人による多重録音である。リンゴのシャープなドラム・プレイによるサポートはあるものの、曲全体の印象としては、ジョンのほとばしるような創作エネルギーを強く感じさせるナンバーと言える。

"Can't Buy Me Love"

 ポール・マッカートニーによるロックンロール・ナンバー。ダブル・トラックによるボーカルも、すべてポールが担当している。プロローグ的に曲名をシャウトする箇所と主題部分とをロンドのように繰り返すことで構成されるナンバーであり、間奏に入るジョージのギターソロもテクニカルとは言い難いものの味のあるプレイを聴かせる (ギターソロの前半部分のみが多重録音と思われる)。

 ポール自身にとっても、最近の2回のワールドツアー(16) でいずれもこの曲を演奏していることから、かなりの自信作と感じられる。なお、1989年開始のツアーを録音した "Tripping The Live Fantastic" (1990年リリース) (17) 収録のこの曲を聴くと、オリジナル・テイクと比較してかなりアップテンポのリズムで演奏され、加えて、ギターソロのパートが完全に2本のギターによるユニゾンでプレイされていることがわかる (このときのギタリストは、ポール本人と元プリテンダーズ(18)ロビー・マッキントッシュ(19)。ツアー・メンバーの中でもう一人のギタリストであるヘイミッシュ・スチュアート(20) は、この曲ではベースを担当している)。いずれの点も、ライブのノリを重視した結果 であろうか。

 

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