ビートルズ特集


Rubber Soul (1965) 

楽曲紹介[2]

"What Goes On"

 ジョン、ポール、リンゴの三者による共作として、リンゴの名前が初めてアルバムにクレジットされた作品だが、実際には曲の大半をジョンが作曲したと言われる。リンゴがシングル・トラックでリード・ボーカルを取り、ジョンとポールがコーラスでこれをバックアップしている。

 リンゴの好みらしくカントリー調の明るいナンバーだが、メインのボーカル・パートを主役として強調したかったためか、アレンジやレコーディング・テクニックには特に目新しいものが見当たらない。唯一の特徴と言えるものはジョンの弾くリズム・ギターだが、引っ掛かるような独特の短いフレーズをまき散らしながら、ジョ−ジが担当するリード・ギターのパートにまで強引に割って入っていく様子が面 白い。

"Girl"

 「ビートルズ・フォー・セール」の頃から芽生えたジョンの枯れた味わいを漂わすボーカル・スタイルは、この曲に至ってようやく完成されたと言ってよいであろう。逆説的な言い方だが、ハードなロックンロールをシャウトし続けてきたジョン・レノンであるがゆえに、その対極にある枯淡とも表現し得る独自の境地を切り開けたのかもしれない。

 すでに多くの識者が指摘していることだが、3コーラス目の歌詞はとりわけ意味が深い。この曲について単なるラブ・ソング程度の認識しかなかった筆者は、初めてこの曲をカラオケで歌った時に、目の前を流れる英詞の意味の奥深さに仰天し、歌い終えた後でしばらく唖然としていたことを思い出す。

 音楽的には、主旋律の美しさもさることながら、問題の3コーラス目に至って初めて登場する対旋律の魅力を指摘しておきたい。この部分でボーカル・ラインに対して対位 法的に用いられるアコースティック・ギターのフレーズは、ミドル・パートにおける主旋律のコード展開に呼応する形で現れ、エンディングに再び登場することで曲全体を物悲しくもエレガントに締めくくっている。

"I'm Looking Through You"

 別居中のガールフレンド、ジェーン・アッシャー(21) に対する個人的なメッセージとして書かれたポールの作品。ポールのダブルトラック・ボーカルに、ジョンがバックコーラスで短いハーモニーを加える。イントロから鳴り続けるギターや手で膝をたたく音によるリズム・トラックからもアコースティックな印象が強いナンバーだが、主題部分の締めくくりで毎回ハードに打ち鳴らされるタンバリンとリンゴによる荒っぽいオルガン・プレイがアクセントとなって、ポールがリトル・リチャードばりにシャウトするロックンロール調のエンディングを無理なく演出している。

"In My Life"

 抒情的な歌詞と美しい旋律によって知られるジョン・レノンの生涯を通 しての代表作の一つ(なお、この曲の作曲者についてはジョン、ポール、ジョンとポールの共作など諸説がある)。ジョンのダブルトラック・ボーカルに、ポールが表情豊かなバック・コーラスでハーモニーを加えていく。

 曲のイメージは、イントロのギター・リフとこれを受けてスタートするリンゴ独特のタメを効かせたドラムスのトラックによって主導される。一瞬で聴き手の耳を捉える美しいギター・リフはさすがと言うほかないが、加えて、ギターの旋律にハーモニーを重ねるベース・ラインが隠し味的に使われるなど細部までの工夫が行き届いている点も見逃すことはできない。ギター・リフに導かれるリンゴのドラムスは、他のロック・バンドではほとんど聴くことのできない彼特有のユニークなものだが、ギター・リフと特徴あるドラム・プレイの組み合わせとしては「ヘルプ!」に収録された "Ticket To Ride" 以来の出来映えと言ってよいであろう。

 リンゴのドラムスは、独特のタメを響かせるのみならず曲の展開に応じて実に多様な表情を見せ、一人称で独白的に綴られるこの歌の世界の構築に一役を買っている。「エリザベス朝のピアノを弾いてほしい」とのジョンのリクエストに応えてジョージ・マーティン(3) が奏でる間奏のピアノも見事だが、この直後にいきなり展開部のパートへ移行しながらも不自然さを全く感じさせない背景には、パートごとに表情を変化させるリンゴのドラム・プレイが大きな役割を果 たしている (リンゴのドラムスが間奏のパートで主題部分と同じ動きを見せることによって、その後の展開部へ無理なく連続している)。

"Wait"

 足りない曲数を補うために、前作「ヘルプ!」のセッションで録音したままお蔵入りしていたナンバーに新たなハーモニーとボーカル・パートを加えてレコーディングし直した作品で、ジョンとポールの共作と言われる。

 主題部分ではジョンのリード・ボーカルにポールがハーモニーを重ね、展開部ではポールがダブル・トラックによってリード・ボーカルを取る。それぞれの曲調やリード・ボーカルを分担する様子から、ジョンが作曲した主題部分にポール作曲の展開部を組み合わせた作品であろうと想像される。主題部分と展開部において、それぞれの主旋律の表情に合わせて全く異なる動きを見せる2本のギターが、この曲の個性をひときわ輝かせている。

"If I Needed Someone"

 前作「ヘルプ!」における "You Like Me Too Much" でソングライターとしての自立の足掛かりを掴んだかに思われたジョージ・ハリスンは、この曲に至って飛躍的な成長の跡を見せる (ジョージ特有の半音階を多用して美しい旋律を紡ぎ出す作曲手法は、この曲でほぼ完成の域に至ったと考えてよいであろう)。ジョージは、自らが奏でる12弦ギターのリフやポールによるやや無機的なベース・ラインの効果 にも助けられ、少なからずサイケデリックな雰囲気を感じさせる個性的なナンバーとしてこの曲を完成させることに成功している。

 この曲のボーカル・パートは、ジョ−ジがダブル・トラックによってリードを取る部分と、ジョンとポールを加えた三人が3部構成によってハーモニーを重ねる部分とに大別 される。三人によるコーラス・パートは、このアルバムの中でも屈指のハーモニーの美しさと表現の多様さを誇示するものであり、ビートルズがボーカル・グループとしての力量 をあらためて見せつけた作品とも言い得るであろう。

"Run For Youe Life"

 ジョン・レノンの軽快なロック・ナンバーによって、アルバム「ラバーソウル」はその幕を降ろす。気持ちよいほどの歯切れ良さを感じさせるジョンのシングルトラック・ボーカルに、ポールとジョージが要所でリズミカルなバック・コーラスを加えている。

 このアルバムでは、しつこいと思うほどにタンバリンを多用してリズム・トラックのサウンドを厚くしているビートルズだが、その特徴はこの曲にも顕著に表れている。タンバリンとリズム・ギターを中核とするこの曲のリズム・セクションは、アップ・テンポながらも重量 感のあるリズムを一貫して刻み続けることで、ボーカルのアクセントを少し変えるだけでレゲエ・ナンバーになってしまいそうなこの曲の独特のリズムのノリを生み出している。

  以上 「ラバーソウル」 終わり

 

 注) アルバムの日本語解説のほか、以下の文献を参考にしている。
・ジョン・ロバートソン著/丸山京子訳「ビートルズ全曲解説」(1994年)
・レコード・コレクターズ増刊「ザ・ビートルズ コンプリート・ワークス2」 株式会社ミュージック・マガジン (2000年)

 

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