ビートルズ特集


Help! (1965)

楽曲紹介[1]

"Help!"

 ジョンが映画 「ヘルプ!」のタイトル・ナンバーとして作曲した作品。ビートルズの全曲を通 して最もドラマティックな構成を持つナンバーの一つである。

 ギターがかきならすコードとともに曲名をシャウトするコーラスによって唐突にスタートするこの曲は、ジョンのダブルトラック・ボーカルにポールとジョージがハーモニーを重ねる主題部分へと引き継がれる。この部分を主導していくのは、ボーカル・ラインのリズムとは異なるテンポを刻むポールのベース・ギターである。その後の展開部とも言うべきジョンのボーカルが高音へ舞い上がるパートへ移ると、コーラスが止まる代わりにベースがアップ・テンポに変化して流れを盛り上げていく。

 また、この部分ではエレクトリック・ギターがボーカルに対してオブリガート的に絡むなどの趣向が凝らされているが、このギター・フレーズは、イントロのコーラス・パートでジョンのボーカルに対して対位法的な動きを見せるギターの旋律に呼応するものである。

 全体の構成としては、同じ主題を繰り返して聴かせるロンドの手法に基づいて作曲されたナンバーと言える。しかしながら、繰り返しの最後に登場するフレーズの前半部分では、コーラスとベースのパートが取り除かれているほか、リズム・トラックの細部に変化を加えるなどの工夫が凝らされることで曲全体の表情に明確な陰陽がもたらされる。また、イントロのコーラス・パートから本編へつなぐ短いギター・フレーズを、ロンド形式で繰り返される各フレーズの締め括りに登場するコーラス部分でも再び使用してイメージの統一をはかるなど、決して単純な旋律の繰り返しには終始していない。

 何と言ってもこの曲の最大の聴きどころは、ジョンのボーカルに、展開に応じた多様な表情をもって効果 的に絡むポールとジョージのコーラスであろう。複数のボーカリストがハーモニーを重ねる手法はビートルズにとって決して珍しいものではないが、この曲ほど複雑な変化をつけながら美しい効果 を生み出していくコーラスは、前作までのアルバム収録曲の中にはほとんど見い出すことができない。

 その一方で、曲全体を貫くロックのビート感は、まさにこれまでのビートルズが体現してきたロックンロールの延長に位置するものであり、唐突なイントロから美しいハーモニーによって締め括られるエンディングまでを一気に聴かせるエネルギーを曲全体が放っている。

 この曲は、これまでのビートルズがまき散らしてきたロックのエネルギーをストレートに受け継ぎながらも、曲作りの技巧においては従来の水準を脱した著しい成長をうかがわせるものであり、いずれの意味においても、本アルバムにおけるビートルズを象徴するナンバーとして不足はないと考えられる。

"The Night Before"

 ビートルズにしては珍しくエコーの深いリード・ボーカルが楽しめるポールの作品。ミドル・パートでラテン風の響きを聴かせるリンゴのリズム・トラックや、ダブル・トラックでオクターブを違えたユニゾンのソロを奏でるジョージのギター・プレイなど、個々に特徴のあるパートを取り揃えた面 白さはあるものの、曲全体の構成力においては、前曲 "Help!" と比較してお手軽に制作されたという印象をぬ ぐえない。なお、この曲ではジョンがいつものギターではなくエレクトリック・ピアノでリズム・セクションに加わっているが、新たな試みにチャレンジする意欲の表れであろうか。

"You've Got To Hide Your Love Away"

 後に "Help!" が当時の自らの本心を吐露した作品であったことを告白したジョン・レノンは、この曲についても、作者自身を対象とした内省的な作品であることを認めている。マイルズ編「ビートルズ伝説」に収録された本人達のコメントの中で、ジョンはこの曲について「ただ自分について感じたことを表現してみようとした。それができるようになったのはディラン(25) のおかげだ」と発言している。

 なお、この曲は、メンバーとプロデューサーのジョージ・マーティン(3) 以外の部外者をスタジオ・ワークに加えたことがなかったビートルズにとって (デビュー・シングル "Love Me Do" に加わったドラマーのアンディ・ホワイトを除く)、初めて外部のミュージシャンを起用した記念碑的な作品でもある。コーダ部分のダブル・トラックによるアルト・フルートは、アレンジャー兼スタジオ・ミュージシャンのジョニー・スコットが演奏している。

"I Need You"

 アルバム "With The Beatles" に収録された "Don't Bother Me" 以来となるジョージ・ハリスンのオリジナル作品。リード・ボーカルもジョージ本人が担当している。曲そのものはシンプルだが、ややシニカルに構えた表情の中にも翳りをうかがわせる旋律や、パーカッションのリズムとともに静かな盛り上がりを迎える後段の展開など、ソングライターとしてのジョージの成長ぶりを感じさせるナンバーである。

 ボリューム・ペダルを使用してジョージ自身が奏でるギター・リフや、ボーカル・パートを優しく包み込むように流れるポールのベース・ライン、また、さりげなく彩 りを添えるかのように加えられたジョンとポールによるコーラス・パートなど、その全てが、この曲が放つ瑞々しさをバックアップしているかのようである。

"Another Girl"

 "The Night Before" に続いて再び登場するポールの軽快なロック・ナンバー。全編をポールがダブルトラック・ボーカルで歌い通 し、ジョンとジョージが軽めのコーラスをこれに添えている。ポールが作曲したこの曲の旋律は、リズム&ブルースからの影響を感じさせながらも常套的なフレーズには流れず、ポール独特のユニークな展開に終始している。やや意外なことに、この曲のリード・ギターはジョ−ジではなくポールが演奏しているのだが、これまでにもっと活躍の場があってもよかったのではと思えるほどの手慣れたプレイぶりでそつなくまとめあげている。

"You're Going To Lose That Girl"

 ジョンの作品。ダブル・トラックによるジョンのリード・ボーカルにポールとジョージのコーラスがオブリガートとして絡む。リード・ボーカルとコーラス・パートがこの曲ほど応答歌のごとく明確な対比をもって歌われるナンバーはビートルズには珍しいのだが、この主題部分と、鮮やかな転調によって幕を開ける展開部での二重唱とのバランスが、この曲をより印象深いものに仕上げている。ほぼ全編を通 して響くラテン風のパーカッションとジョンのリズム・ギターも効果的で、ビートルズ・ナンバーの中でも異彩 を放つ曲の一つと言えよう。

"Ticket To Ride"

 印象的なギター・リフと、これと折り重なるように入ってくるドラムスに導かれてジョンがシングル・トラックで歌い始める。複雑だが効果 的なコーラスでジョンのボーカルをパックアップしているのはポールである。ジョンのボーカルは、部分的にダブル・トラックをはさみながらも ("She's got a ticket to ride" の箇所のみがダブル・トラック)、ほぼ全編をシングル・トラックで歌い通 し、ポールのコーラスとの絶妙なハーモニーを響かせる。

 曲全体の印象を作り上げているのは、イントロから主題部分のほぼ全体を覆い尽くすギター・リフとドラムスのトラックである。特に、ポールがアイディアを提供したと言われるドラムスの動きは、ギター・リフの旋律をそのままリズム化したような独特のタメを持ち、ビートルズ・ナンバーとしては初めてのサイケデリックあるいはアバンギャルド・ナンバーと呼びたくなるようなこの曲の性格を決定づけている。なお、この曲においても、ミドル・パートから主題部分への連結箇所とエンディングで聴かれる軽くしなやかなギター・ソロは、ジョージではなくポールがプレイしている。

 

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