ビートルズ特集


Help! (1965)

楽曲紹介[2]

"It's Only Love"

 作曲者であるジョンが、シングルとダブルによる2種類のボーカル・トラックを駆使して歌い上げるナンバー。当時のジョンのボーカルは、ただでさえ鋭さを売り物にする感が強かったのだが、この曲においては2種類のボーカル・トラックを見事に対比させることで主題部分のボーカル・ライン (この部分がシングル・トラック) のシャープさを際だてるとともに、曲全体の劇的な効果 をより高めることに成功している。間奏を一切はさむことなくジョンが一気に歌い通 す曲の構成も、同じ意図に基づくものと考えられる。

 ボリューム・ペダルを用いてジョ−ジが弾くリード、リズム伴奏に徹するアコースティック、そしてボーカル・ラインに特徴あるリズムをかぶせるエレクトリックの計3本のギターが、この曲の骨格を形成していく。中でもエレクトリックによるリズム・ギターは、後の "Here There And Everywhere" などにおけるプレイを先取りしたかのようなジョンのお得意のスタイルである。

 このリズム・ギターのパートとジョージのリードとの絡みやそれぞれの受け渡しがこの曲の聴きどころの一つとなるのだが、イントロ、主題部分から展開部へのつなぎ、さらにはエンディングといった各節目となる箇所で統一感をはかりながらも、微妙な変化を加えて2本のギターを使い分け、また、重ね合わせていく手法には、本人達の工夫の跡が強く感じられる。

"You Like Me Too Much"

 このアルバムに収録されたジョージ・ハリスンの2曲目のオリジナル・ナンバーであり、ダブル・トラックによるリード・ボーカルもジョージが担当している。ポールほどの声域の広さを持たないジョージは、その曲作りにおいてもダイナミックな展開には頼りにくく、結果 として、近い音をつなぎながら半音階を駆使することで旋律の多様性を確保するという方法を取らざるを得ないのだが、このナンバーにおいて、ジョージはようやくその作曲法を確立するきっかけを掴んだようである。とりわけ、ポールがコーラスを重ねるミドル・パートにその特徴が強く表れている。

 例によって他のメンバーによるサポートも抜かりなく、ポールによるコーラスは、ジョ−ジのメロディ展開に合わせて意外なほどの低音で押さえ気味に設定され、注意深く聴かなければ、ポールではなくジョージが歌っているものと錯覚しかねないほどである。

 また、ポールのナンバー "The Night Before" でエレクトリック・ピアノを試し気味に弾いていたジョンは、この曲でも同じくエレクトリック・ピアノでリズムを担当しているが、前曲と比較して今回は完全にこの楽器をモノにした感があり、ややジャジーで独特のタメを持ちながら、この曲の躍動感の源泉を担うとも言うべきリズミックなピアノ・プレイを披露している。なお、イントロ、間奏、エンディングで聴かれるカントリー調のアコースティック・ピアノを担当しているのは、ポールとジョージ・マーティン(3) の二人である。

"Tell Me What You See"

 ポールが作曲し、ジョンとポールが二人でリード・ボーカルをとったナンバー。天性とも言える広い声域を生かしてバラッド・シンガーとしても活躍することとなるポールは、その作曲技法においても印象的なオクターブ・ジャンプを駆使して幾多の名曲を生み出すことになるのだが、この曲は、そのパターンを取り入れた初期の試作品の一つと言えるだろう。

 また、これまでにも幾つかのナンバーでラテン風のリズムを効果的に使ってきたビートルズではあるが、この曲では真正面 からラテン・ミュージックのノリに 取り組んでおり、自らの音楽世界の拡張に意識的に挑んでいく姿勢が感じられる。技巧的とは言えないもののポール自らがチャレンジしたエレクトリック・ピアノのソロも含め、作曲、サウンドの両面 においてポールの急成長を予告しているかのようなナンバーである。

"I've Just Seen A Face"

 カントリー調の楽風で作曲されたポールの作品。12弦ギターの下降していくメロディ・ラインに、2本のアコースティック・ギターによる3連符のフィンガリングがテンポ・アップして加わる導入部は印象的である。さらに、この美しいイントロを突然に遮るかのようにポールが歌い出す瞬間は見事で、初めて聴く者は、その意外性とドラマティックな展開の妙に言葉を失うに違いない。

 イントロで聴かれる12弦ギターの下降スケールは、主題部分でも曲の骨格を担う重要な動きを見せており、ポールのボーカル・ラインに対して対位 法的な旋律を響かせながら曲全体の輪郭を浮かび上がらせていく。ジョン・ロバートソン著「ビートルズ全曲解説」が伝えるとおり、この曲がわずか3時間でレコーディングされたという逸話が事実であるならば、彼らがこの時期に発揮し始めた才能の煌めきには、あらためて脱帽せざるを得ない。

"Yesterday"

 アコースティック・ギターの弾き語りに弦楽四重奏を加えるというロック史上に残る斬新なアイディアは、このアルバムのプロデューサー、ジョージ・マーティン(3) の発案と言われる。この曲が、20世紀を代表するポップス・スタンダードとして聴き継がれる理由の一つはそのアイディアの革新性にあるのだろうが、作曲者のポールは、あくまでもギターの弾き語りとしてこの曲を創作したのであり、ジョージ・マーティン(3) のクラシカルなアレンジによっても原曲の持つシンプルな力強さが損なわれていないという事実こそが、この曲を永遠に輝かせる最大のマジックであろう。

 なお、この曲のレコーディングには、ポールを除き、ビートルズのメンバーは誰も加わっていない。ポールのボーカルは、最初に登場する "Now I long for yesterday" の部分だけをダブル・トラックで録音しているのだが、繰り返し聴くごとに、この部分のポールの一人ハーモニーが深奥な響きを増していくように感じられてならない。

 余談になるが、1989年にスタートしたワールド・ツアー(1) で東京を訪れたポールは、この時に配られた日本語のコンサート・プログラムの中で、自身が最も気に入っているマッカートニー・ソングとして "Yesterday" を挙げている。

 

以上 "Help!" 終わり

 注) アルバムの日本語解説のほか、以下の文献を参考にしている。

 ・マイルズ編/吉成伸幸訳「ビートルズ伝説」(1986年)
 ・ジョン・ロバートソン著/丸山京子訳「ビートルズ全曲解説」(1994年)
 ・レコード・コレクターズ増刊「ザ・ビートルズ コンプリート・ワークス1」(1998年)

 

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