1935年、米国ジョージア州、メイコンの生まれ。1950年代から60年代を中心に活躍したカリスマ的なロックンローラー。ゴスペルやブルースの影響を強く受けながらも、アグレッシブにシャウトする独自のロックボーカル・スタイルで人気を博し、ビートルズのポール・マッカートニーやロッド・スチュワートなど英米の多くのロック・シンガーに影響を与えた。
少年時代から地元メイコンの教会でゴスペル・コーラスに参加していたリチャードは、1951年のタレント・コンテストでの優勝をきっかけにRCAレコードとの契約にこぎつけ、2枚のシングル・レコードをリリースする。しかしながら、これらのシングルはいずれも商業的なヒットには至らず、リチャードは再びバス・ストップでの皿洗いという地味な仕事に戻って次のチャンスを待つこととなった。
チャンスは、ロイド・プライス* の薦めに従いロサンゼルスの新興レーベル、スペシャルティ・レコードへ送った1本のデモ・テープによってもたらされた。このテープに興味を持ったスペシャルティ・レコードは即座にリチャードとの契約を決定し、ニューオリンズのスタジオでレコーディング・セッションが開始される。そして、このセッションから生まれたリトル・リチャードの大ヒット・ナンバーが1955年にリリースされた "Tutti Frutti" (「トゥッティ・フルッティ」) であった。
(*ロイド・プライスは、スペシャルティ・レコードを代表する黒人ソウル・シンガーでファッツ・ドミノのピアノ伴奏でも知られる "Lawdy Miss Clawdy" などの多くのヒット曲を同レーベルに残した。また、朝鮮戦争からの退役後には自らのレーベルであるKRCレコードを立ち上げ、後にジョン・レノンのカバーでも知られることとなる美しいバラッド・ナンバーの "Just Because" を1957年にヒットさせている)
リチャードの事実上のデビュー・シングルとも言うべき "Tutti Frutti" には、エモーショナルでエネルギッシュなリード・ボーカルに加え、ピアノやサックスの響きが生み出す独特のグルーヴ感やタイトなリズム・セクションなどリトル・リチャードの魅力が凝縮されている。そして、この曲を皮切りにリトル・リチャードは翌年の56年から57年にかけて、"Long Tall Sally"、"Slippin' and Slidin'"、"Good Golly, Miss Molly" などのヒット曲を連続してリリースすることでロックンローラーの第一人者としての地位 を確立するのである。
しかしながらリトル・リチャードは、その人気が絶頂にあった1959年にアラバマの神学校への入学を目的にロック・シーンからの突然の引退を発表してファンを驚かせる。一説によれば、オーストラリアへのツアー中に彼の乗った飛行機が空中で火を吹き、このとき「助かるならば神職につきます」と祈ったリチャードは、無事に飛行機が着陸した後にその誓いを守って本当に神の道に入ろうとしたのだと伝えられる。いずれにせよ、ファンがリトル・リチャードの音楽シーンへのカムバックを見届けるためには1962年まで待たなければならなかったのである。
60年代の半ばに米国の音楽マーケットを席巻したブリティッシュ・インベ−ジョンに対してもリトル・リチャードは絶大な影響力をもたらした。ビートルズ、ローリング・ストーンズなど、米国でも高い人気を誇ったイギリスのロック・バンドは例外なくそのステージ・パフォーマンスにリトル・リチャードの曲目を取り入れているが、中でもビートルズのポール・マッカートニ−は、そのボーカルと作曲のスタイルにおいてリトル・リチャードからの多大な影響を受けたミュージシャンとして知られている。
生来の太い地声とファルセットまでを駆使する声域の広さにおいて、そもそもリトル・リチャードとポール・マッカートニーには共通 する素地があったと言えるが、引き伸ばした音の語尾を軽く上げるようなボーカル・ラインの締め括り方やフレーズの合間にアドリブのシャウトを織り込むボーカル・スタイルなど、ポールのロック・シンガーとしての特徴には明らかにリトル・リチャードからの強い影響が垣間見える。また、ビートルズ初期のポールの代表作である "I Saw Her Standing There" も、リトル・リチャードという先人なくしては生まれなかった名曲の一つと言えるだろう。
1986年に、リトル・リチャードはロックの殿堂入り ("the Rock & Roll of Fame") を果たしたが、これは彼の音楽キャリアの終着点を意味するものではない。リトル・リチャードは、その後もU2とともにB・B・キングのセッションに参加し、また、アーノルド・シュワルツェネッガーの主演でヒットした映画「トゥインズ」の主題歌をアース・ウインド・アンド・ファイアーのフィリップ・ベイリーとのデュオで歌い上げるなど多彩 な活動を繰り広げている。リトル・リチャードは、20世紀を代表するロックンローラーであると同時に、21世紀においても輝かしい足跡を残す希有なミュージシャンの一人として音楽ファンの記憶の中に刻み込まれていくに違いない。
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