ロック名曲セレクション



ソング・フォー・ユー
  レオン・ラッセル

なごみ
ダンス
ソウル

原題 A Song For You
リリース 1970年
作詞・作曲 レオン・ラッセル
プロデュース デニー・コーデル、レオン・ラッセル
演奏時間 4分7秒
収録アルバム 「レオン・ラッセル」(シェルター/1970年)
ミュージシャン レオン・ラッセル(ボーカル、ピアノ)、他

 

[レビュー]

 スワンプ・ロックの中心人物であり、LAロック界のキーパーソンの一人としても活躍したレオン・ラッセルは、1941年、米国オクラホマ州、ロートンの生まれ。ロック史上に刻まれる彼の足跡の輝かしさを反映して、その音楽キャリアは長く、かつ、多岐に渡る。

 わずか3歳でピアノを学び始め、10代前半でプロのバンド活動を開始したレオンは、60年代の初めにロサンゼルスへ移住。フィル・スペクターがプロデュースするロネッツ等のセッションに参加しながら、1965年にザ・バーズのヒット・ナンバー「ミスター・タンブリンマン」(原曲はボブ・ディラン)のレコーディング・メンバーの一人として注目を集める。また、1968年にはマーク・ベノとのコンビでアサイラム・クワイアを結成し、アルバム「ルック・インサイド」を発表して批評家からの高い評価を受けることとなる。

 一方、レオンのスワンプ系ロック・ミュージックは米国南部の黒人音楽を志向する英国のロック・アーティスト達に注目されるところとなり、レオン・ラッセルはローリング・ストーンズエリック・クラプトンらのビッグ・ネームのアルバム・レコーディングに招聘される。加えて、この頃のレオンは、米国サザン・ロックの中核的存在であるデラニー&ボニーのアルバム・プロデュースにも深く関わっていく。

 これらの精力的なセッション、プロデュース活動に勤しんでいたレオンに転機をもたらしたものは、英国ロック界でムーディ・ブルースプロコル・ハルムのプロデューサーとして名を馳せていたデニー・コーデルとの出会いであった。ジョー・コッカーのセカンド・アルバムをレオンと共同プロデュースした際に彼の才能に着目したデニー・コーデルは、レオン・ラッセルとともにインディ・レーベルのシェルターを立ち上げ、1970年5月にレオンのソロ・アルバム「レオン・ラッセル」をリリースする。

(その後のレオンは、ミュージシャンとしての活動を続けながら、シェルターの副社長[社長はデニー・コーデル]として新しいアーティストの発掘とそのプロデュースに邁進することになる)

 本ナンバー「ソング・フォー・ユー」は、アルバム「レオン・ラッセル」のオープニングを飾る曲目であるとともに、レオン・ラッセルを代表する名曲の一つとして多くのシンガーにカバーされ、かつ、ファンに聴き継がれているナンバーである。

 曲は、レオン自身によるピアノの弾き語りにブラス・アンサンブルを控えめに加えただけのきわめてシンプルな構成で演奏される。レオン・ラッセルの音楽上の特徴は、うねるような深いリズムをバックに生み出されるアーシーな雰囲気に都会的で洒脱なサウンド感覚を交えた奇妙なブレンド感にあると言えるが、ジャジーなピアノ伴奏に乗せてソウルフルに歌い上げる「ソング・フォー・ユー」からは、レオン・ラッセルのミュージシャンとしての特有の魅力が十分に伝わってくる。

 また、ヴァン・モリソンやジョー・コッカーのように自身の魂を振り絞るごとくシャウトするタイプとは異なり、情感を込めながらも一歩を引いて醒めた感覚の中で歌い繋ぐレオンの独特のボーカル・スタイルからは、アレンジャーあるいはプロデューサーとしての長年のキャリアを背景に育まれた彼のミュージック・エンターテイナーとしての奥の深さが垣間見えるかのようである。

 

[モア・インフォメーション]

 アルバム「レオン・ラッセル」のレコーディングは、大きく分けてロンドン、ロサンゼルス、メンフィスの3ケ所で行われている。中でも注目すべきは、元ビートルズのジョージ・ハリスンとリンゴ・スター、ストーンズのビル・ワイマンやチャーリー・ワッツに加え、エリック・クラプトンスティーヴ・ウィンウッド、クラウス・ヴアマンらが参加したロンドン・セッションである。

 レオンのスワンプ系サウンドが黒人ブルースを志向する英国のロック・ミュージシャンに注目されていたことはすでに述べたとおりだが、レオンを敬愛する彼らが、「レオン・ラッセル」のアルバム・レコーディングに際してきわめて敬虔な態度を取ったであろうことは想像に難くなく、また、いずれ劣らぬ 個性豊かなアーティストである彼らを巧みにリードしてセッションをまとめ上げたレオンのコーディネーターとしての手腕を含め、いずれの点からも興味深いレコーディング・セッションと言えよう。

 このロンドン・セッションからはジョー・コッカーのカバーでも知られる「デルタ・レディ」などの名曲が生まれているが、個人的には、パーカッションのディープなリズムを背景にクラプトンのギター・ソロが聴き手を圧倒する「プリンス・オブ・ピース」をベスト・トラックに推したい。

 なお、すでに述べたほか、B.B.キング、フレディ・キング、デイヴ・メイソンジェシ・エド・デイビス、カーペンターズ、ハーパース・ビザールデル・シャノンなど書き切れないほど多くのミュージシャンのレコーディングに関わっているレオン・ラッセルだが、自身の作品としては、シェルターからリリースした「レオン・ラッセル・アンド・ザ・シェルター・ピープル」(1971年)と「カーニー」(1972年)の2枚のアルバムの評価が高い。また、「カーニー」からシングル・カットされた「タイトロープ」は全米チャートの第11位 まで上昇し、シェルター史上で最大のヒット曲となった。

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