ビートルズ特集


Revolver (1966)

楽曲紹介[1]

"Taxman"

 ジョージ・ハリスンは、この曲で初めてアルバムのオープニングを飾る栄誉を手にすることとなった。そのゆえに、この曲はジョージのソングライターとしての著しい成長を裏付ける作品と言えるが、その一方で、アレンジ面も含めたグループ全体の表現力が飛躍的に向上している点も見逃すべきではない。

 ジョージのダブルトラック・ボーカルに、ポールのベースとジョンのノイジーなリズム・ギターが加わって曲の骨格を形成していく。特にポールのベースは、主題部分でのベーシックな動きから、コーラスが主導するミドル・パートでのリズミカルなプレイへと大胆な表情の変化を見せ、この曲の躍動感を支えるうえできわめて重要な役割を果たしている。

 また、曲の展開に応じて、パーカッション主体の細やかなリズム・トラック、バック・コーラス、さらにはポールによるリード・ギターが同じ表情を二度と見せないほどのバリエーションに富む味付けを加えており、ジョージが提供した素材をメンバー全員で思う存分に料理している様子がうかがえる。

 なお、音階を半ば無視するような個性的なフレージングを聴かせるリード・ギターのみならず、曲全体のアレンジもポールが中心となってアイディアを提供したと言われ、クループ内での創作上の主導権の担い手が、すでにジョンからポールへと移り変わりつつあることを端的に示す楽曲の一つでもあると思われる。

"Eleanor Rigby"

 アルバム「ヘルプ!」に収録された "Yesterday" ではアコースティック・ギターの弾き語りに弦楽四重奏をかぶせたビートルズだが、この曲では、ロック・ボーカルとコーラスに弦楽八重奏のアレンジが施されることとなった (他の楽器は全く使用されていない)。

 バラッド形式で独自の歌世界を綴っていくポールのボーカル・パートに対して、時には伴奏の役割を果 たし、また、箇所によっては対旋律を響かせ、最終フレーズではボーカルへのユニゾン・パートまでが登場するジョージ・マーティン(3) のストリングス・アレンジは見事と言うほかなく、ロック史上に残る最も斬新でユニークな効果 をもたらした編曲の一例と言えよう。

 また、この曲はミキシングのうえでも細心の工夫が凝らされ、ダブルトラックでスタートするポールのボーカルは何故か瞬時にシングルトラックへと切り替えられ、そのまま最後までシングルトラックによって歌い通している。

 ただし、同じシングルトラックでも、第1主題では右のスピーカーのみからポールのボーカルが聴こえるのに対し、第2主題ではボーカル・トラックが中央に据えられるなど (左右のスピーカーを同時に使用)、主題の変化に応じて使用されるスピーカーが繰り返し切り替わることによってリード・ボーカルの印象が単調に陥ることを防ぐとともに、バラッド・スタイルで歌われる物語の進展にダイナミックなドラマ性を付与する要因とも成り得ている。(なお、ストリングスは一貫して中央、また、コーラスのトラックは左のスピーカーのみが使用されている)

"I'm Only Sleeping"

 「ラバーソウル」に収録された "Girl" について、ジョンの枯れた味わいによるボーカル・スタイルが完成に導かれた作品と書いたが、ジョン・レノン本人はその程度のことでは満足できなかったらしい。この曲においてジョンは、"Girl" で自らが完成させたはずのボーカル・スタイルに録音技術上の操作を施し、録音テープの回転数を上げることで、さらに異質となるボーカル・ワールドを造り上げてしまった。

 また、この曲では必ず話題となるテープを逆回転させてレコーディングしたジョージのギター・ソロについて、発表当時はそのサウンドとアイディア自体が驚きであったと想像されるが、真に驚愕すべきは、従来のロック・ナンバーにおいて主題の合間をつなぐ間奏のソロ・パートに過ぎなかったギター・ソロを、単なるつなぎのフレーズではなく、曲全体のコンセプトを見通したうえでのサウンド・エフェクトの一つとして使用した点ではないだろうか。(後にプログレッシブ・ロックやロキシー・ミュージックのようなバンドが当然のごとく用いることになる手法だが、そのルーツはこの曲あたりのビートルズにあるのではないか) 

 主題部分を完全に終結させたうえで、ベース・ラインの転調のみをきっかけにミドル・パートの扉をこじ開けていく手法や、作品の主題とは直接関係のないサイケ調のコーダによる締め括りなども含め、録音技術上の面 白さのみならず、作品としての表現形式のうえでも、従来のロック・ミュージックの常識を覆したナンバーと言えるだろう。

"Love You To"

 自らシタールを演奏し、また、ダブルトラックによるリード・ボーカルも担当したジョージの作品。使用されている楽器からもインド音楽のイメージを強く受ける作品で、実際にレコーディングに参加したビートル・メンバーはジョージのみと言われる。

 ポールが、"Yesterday" を同様の状況下で録音することによって音楽家としての一人立ちを果 たしたことを思えば、本作においてジョージもまた一人立ちを成し遂げたと言えなくもないのだが、圧倒的なポピュラリティを獲得したポールの作品に対して、ジョージの本作はかなり地味な印象を免れず、残念ながら、グループ内でのジョージのポジションを鮮烈にアピールするだけの効果 が十分であったとは言い難い。

"Here, There And Everywhere"

 旋律の美しさにおいては、ビートルズの全作品を通しても屈指と思われるポールの作品。オープニングの転調で使用される二つのコードが作品の根幹を成し、ミドル・パートで聴かれる鮮やかな転調においても、この二つのコード間を旋律が美しく行き交う。このような作品を聴くと、予め意図された構想によるのではなく、あたかも無意識に沸き上がるイメージの中から自然に旋律が紡ぎ出されているかのような印象を受け、ポールが発揮する音楽上の創作能力にはあらためて感嘆せざるを得ない。

 ポール自身によるリード・ボーカルは、ほぼ全曲をダブル・トラックで歌い通 すのだが、コーダの直前の部分のみがシングルトラックに変化し、かつ、短いながらも部分的に2部構成を交えるなど細部に至るまでの工夫が凝らされていることがわかる。また、曲全体にわたってポールのボーカルをサポートするジョンのリズム・ギターは、やや不安定な危うさを感じさせる微妙な変化を加えたカッティング・プレイによってこの曲に隠し味的な彩 りを加えている。

"Yellow Submarine"

 当初からリンゴのリード・ボーカルを念頭において作曲されたと言われるポールの作品。曲そのものの構成は、リンゴのボーカル・パートに、リンゴ本人による妙に乾いたドラミングと他のメンバーによるバック・コーラスの二つを主たる要素として加えたシンプルなスタイルによるナンバーと言える。

 しかしながら、スタジオ内のノウハウを総動員したとも伝えられるサウンド・エフェクトには、これまでのビートルズ・ソングでは考えられないほどの豊富なアイディアが詰め込まれ、ストローを使ったあぶくの音から海をイメージさせる波の音、また、船員のかけ声からマーチング・バンドのブラス・アンサンブルまで、実に手の込んだ多彩 なアレンジによる響きをもたらしている。

 これらの効果音によって、わずか2分半ほどの楽曲の中にはあたかもライブ映像を見ているかのような鮮烈なイメージが込められることとなり、結果 として、この曲にヒントを得たアニメ映画「イエロー・サブマリン」の誕生に結びついた経緯についても容易に納得できると言うべきであろう。

"She Said She Said"

 1965年8月にロサンゼルスで開かれたパーティの中で、俳優ピーター・フォンダが語った言葉「死が何であるかを知っている」に触発されてジョンが作曲したと言われる作品。エレクトリック・ギターとジョンのダブルトラック・ボーカルがあたかもツイン・リードのごとく曲の骨組みを形作り、派手さはないもののリンゴとポールの堅実なリズム・セクションがしっかりとこれをバックアップしていく (リンゴのドラム・プレイはこの曲においても目覚ましい活躍を見せる)。

 ミドル・パートで聴かれる激しいリズムの変化、そして、コーダ部分に登場するジョンの多重録音による一人転唱とも言うべきエンディングからは、当時のジョンが抱えていたと想像される不安定な心の動きが垣間見えるかのようである。

 

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