ビートルズ特集


Revolver (1966)

楽曲紹介[2]

"Good Day Sunshine"

 ポールによる2分間ポップ・チューン。しかしながら、その構成とレコーディングは単純ではなく、ピアノとドラムスのシンプルな動きでスタートするこの曲は、旋律の展開にともなって、ピアノ、ドラムスの両方のパートがいずれも複数のトラックを用いた複雑な多重録音であることを次第に明らかにしていく。コーダ部分でのコーラスの転調も絶妙で、いかにもポール的と呼びたくなるナンバーの一つである。

"And Your Bird Can Sing"

 ジョンの作品。小細工を排したかのようなジョンの生きのいいリード・ボーカル、うねるようなノリを聴かせるポールのベース・ライン、シンバルとハンド・クラップを中心に据えたリズム・セクションなどからは、初期の頃のビートルズ・サウンドが蘇ったかのような印象を受け、サウンド全体がかなり複雑化している「リボルバ−」の中ではかえって新鮮な驚きを与えるナンバーである。

 また、聴く者の耳に最も鮮烈な印象を残すこの曲のリード・ギターは、あたかもクラシック音楽のコンチェルトにおけるソリストのような華やかさを感じさせるが、同時に、展開部においてはボーカル・パートに対する対旋律の動きを見せるなど、音楽表現の上でもこの曲に欠かせない重要な役割を担っている。

 

"For No One"

 またしても美しい旋律を響かせるバラッド調のポールの作品。ボーカル・パートと間奏のフレンチ・ホルンを除けば、チェンバロ、ベースとパーカッションのみによって曲の全体が構成されるきわめてシンプルなナンバーと言える。ただし、チェンバロの伴奏のみで歌われる最初の主題からベースとパーカッションが加わるミドル・パートへの発展など曲の展開に従って音の厚味が増していく面 白さや、ミドル・パートでチェンバロのメロディ・ラインをなぞるようにハーモニーを重ねるベースの動きなど、細部におけるアイディアの工夫がこの曲の美しさをさりげなく引き出している点にも注目したい。

 ジョージ・マーティン(3) がスコアを書いたと言われる間奏でのフレンチ・ホルンのソロは、最終の主題部分でボーカル・ラインに対する複旋律として再び姿を現わし、曲全体の構成においては単なる間奏以上の役割を果 たすものであることを曲の最後に至って明らかにしている。

"Doctor Robert"

 当時のニューヨークに実在した医師について書かれたと言われるジョンの作品。ジョンのリード・ボーカルに絡むポールのバック・コーラスが、いつになく興味深いナンバーでもある。これまでに幾度となく息の合ったコーラスを聴かせてきたジョンとポールだが、この曲においてはお互いのタイプの違いを無視するかのようにボーカリストとしての二人の個性を正面 からぶつかり合わせている。しかも、その衝突が決して不協和音とはならず、逆に、この曲のオリジナリティの一つとして楽曲全体を引き締める効果 をもたらしていることこそが彼らの才人たる所以と言うべきであろう。

 また、曲のリズムが変わったかと思うほどにバックのサウンドが一変するミドル・パートでは (実際にはテンポ・チェンジしていない)、同じ音程を刻み続けるギターの動きやこの部分のみで使用されるハーモニウムの無機的なサウンドがサイケデリックなムードを醸し出し、この時期のビートルズならではのひねりの効いた展開を見せる。

"I Want To Tell You"

 アルバム中、3曲目となるジョージの作品。ギター・リフのフェード・インで始まるナンバーにもかかわらず、ボーカル・パートがスタートすると同時にギターのフレーズはかき消され、エンディング近くに至るまで再びギター・リフを聴くことはできない。代わってメロディを先導するのは、並行して流れるかのように類似した動きを見せるピアノとベース・ギターである (いずれもポールによるプレイ)。とりわけピアノが刻むフレーズは、やや力技とも感じられるこの曲のコード・パターンをかなり強引に牽引し、リスナーに対するこの曲の印象を決定づける。また、エンディングで聴かれる東洋的なコーラスのフェード・アウトは、ジョ−ジの個人的な趣味の表れであろうか。

"Got To Get You Into My Life"

 「モータウン(6) から影響を受けた曲」と作曲者のポールが語るとおり (マインズ編「ビートルズ伝説」による)、黒人音楽からの影響をまったく隠そうともしないナンバー。ただし、ビートルズが初めて本格的に導入したホーン・セクションからは、ポール自身の言葉にもかかわらず、モータウン(6) よりもむしろメンフィス・ソウルからの影響が強く感じられる (「ビートルズ全曲解説」の著者であるジョン・ロバートソンも、同著の中でこの曲について「スタックス系サウンドを皮肉った」ナンバーと述べている。なお、スタックス・スタジオについては、関連用語モ−タウン(6)ウィルソン・ピケット(22) 、並びに、名曲セレクション「グリーン・オニオン」をご参照)。

 ライトなポップス感覚が生きた前半と、R&B系のシャウトが心地よい後半の組み合わせも絶妙で、ポールの職人的なソングライティングの才能が十分に発揮された秀曲の一つと言えよう。

"Tomorrow Never Knows"

 アルバム収録曲の中で最初にレコーディングされたにもかかわらず、当時のビートルズに何が起こっていたかを知るうえで最も重要な意味を持つと考えられるナンバー。作曲者はジョン・レノン。

 単一のコードの中で繰り返し同じ旋律を歌うジョンのボーカル、鳥の鳴き声のような意味不明のサウンド・エフェクト、うなり続けるシンバルとパーカッション、状況と関係なく重いリズムを刻み続けるドラムスのトラック、エンディングを告げて打ち鳴らされる短いピアノ・ソロなど、3分間足らずの楽曲の中に無数の要素が渾然とちりばめられ、しかもそのコンポジションにはこれといった構造上の意図が感じられないにもかかわらず、全体を聴き通 すことで聴き手側に例えようのない充足感をもたらす。

 この曲は、確立された音楽様式からの脱却という当時の彼らが無意識に抱いていた創作意欲の一端が最も明確な形で打ち出されたナンバーと言えるだろう。ただし、結果 としてこの姿勢はジョンの創作活動に最も色濃く反映されることとなり、逆にポールは既成の音楽様式の中で自らの技巧に磨きをかける道を選ぶことによって、この後の二人の進む方向が大きく乖離していくことは「リボルバー」のアルバム概論で述べたとおりである。

 以上 「リボルバー」終わり

 

 注) アルバムの日本語解説のほか、以下の文献を参考にしている。
  ・マイルズ編/吉成伸幸訳「ビートルズ伝説」(1986年)
  ・ジョン・ロバートソン著/丸山京子訳「ビートルズ全曲解説」(1994年)
  ・レコード・コレクターズ増刊「ザ・ビートルズ コンプリート・ワークス2」 株式会社ミュージック・マガジン (2000年)

 

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