キープ・ミー・ハンギング・オン | |
ヴァニラ・ファッジ |
なごみ
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ダンス
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ソウル
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原題 | You Keep Me Hanging On |
リリース | 1967年 |
作詞・作曲 | ブライアン・ホランド、ラモン・ドジャー、エディー・ホランド(モータウンをご参照) |
プロデュース | シャドー・モートン |
演奏時間 | 7分20秒(アルバム収録のロング・バージョン/シングル・バージョンは2分59秒) |
収録アルバム | 「キープ・ミー・ハンギング・オン」(アトコ・レコード/1967年) |
ミュージシャン | ヴィンス・マーテル(ギター、ボーカル)、ティム・ボガート(ベース、ボーカル)、カーマイン・アピス(ドラムス、ボーカル)、マーク・スタイン(ボーカル、キーボード) |
[レビュー]
ヴァニラ・ファッジは、ソウルとゴスペルの影響を受けた黒人音楽風のコーラス、キーボードを中心に組み立てられるサイケデリックな音色、重厚なドラムスに象徴されるヘヴィなロック・サウンドなどのユニークな要素をちりばめたハード・ロックを展開し、60年代の後半から70年代初頭にかけて当時の主流を成したサイケデリアなロック・ミュージックからその後のロック界を席巻するヘヴィ・メタル系のハード・ロックへの橋渡しとも言える役割を果 たしたロック・グループである。
ヴァニラ・ファッジのルーツは、後にグループの中核メンバーとなるベーシストのティム・ボガートとキーボード奏者のマーク・スタインが出会った1965年のニューヨークに遡る。二人は、ヴィンス・マーテル(ギター)、ジョーイ・ブレナン(ドラムス)とともにロック・バンドのピジョンズを結成するが(当初はエレクトリック・ピジョンズと名乗ったが、後にピジョンズヘバンド名を短縮)、やがてドラマーのジョーイ・ブレナンがカーマイン・アピスと交代してヴァニラ・ファッジのデビュー時のメンバーが顔を揃える。
ピジョンズは、ガール・ポップ・グループ、ザ・シャグリラズのプロデューサーとして知られるシャドー・モートンが彼らのライヴ・ステージを偶然目撃したことをきっかけにモートンに見い出され、彼の尽力のもとでアトランティック傘下のアトコ・レーベルとの契約に至る。そして、グループ名をヴァニラ・ファッジへ変更した彼らは、デビュー・シングルの「キープ・ミー・ハンギング・オン」(1967年)と同名のアルバム(原題は "Vanilla Fudge"/1967年)をリリースしてメジャー・デビューを果たすのである。
本ナンバー「キープ・ミー・ハンギング・オン」は、ヴァニラ・ファッジのデビュー曲であるとともに彼らの音楽性とその魅力を最もよく伝えるグループの代表曲である。また、この曲は、1967年にグループのデビュー・シングルとしてリリースされたもののヒットには至らず、デビュー・アルバムとセカンド・アルバム「ザ・ビート・ゴーズ・オン」("The Beat Goes On"/1968年)のヒットで彼らの人気が高まった1968年にリイシューされて全米チャートの第6位 へ駆け上がったというやや珍しい経緯を経てヒットを記録したシングル・ナンバーでもある。
モータウンが生んだソウル界のスーパー・グループ、ザ・シュープリームスのヒット曲をカバーした「キープ・ミー・ハンギング・オン」は、リバーヴを効かせたモノトーンのキーボードと東洋的なフレーズを響かせるエレクトリック・ギターを組み合わせたイントロでスタートして、キーボード、ギター、ベースとドラムスが一体となって作り上げるサイケ色の濃厚な序奏パートへと展開する。
その後にマーク・スタインのリード・ボーカルがスタートして曲の本編が幕を開けるが、ソウルフルなスタインのボーカルに加え、ゴスペル色を強く感じさせるバック・コーラスがこれを支えることで、ヘヴィなハード・ロック・サウンドに彩 られたこの曲のイメージの中に黒人音楽的なソウル・フィーリングが鮮やかに植え付けられる。
ギター、キーボード、ベースのユニゾンとハードに打ち鳴らされるドラムスが折り重なって生み出す第一主題の導入部に相当するインスト・パートが聴き手に最も鮮烈な印象を与えるが、この部分のみならず、曲の全編を貫くキーボードのイマジネイティブな音色やミドル・パートでのメローな展開に象徴されるアレンジの妙など、「キープ・ミー・ハンギング・オン」は、ブラック・ミュージックに根ざしながらもサイケ色あふれるハードなロック・サウンドを創り上げたヴァニラ・ファッジの音楽を最もシンボリックに表現するデビュー曲であったと思うのである。
(本稿は「キープ・ミー・ハンギング・オン」のアルバム収録バージョンに基づくレビューである。シングル・バージョンの「キープ・ミー・ハンギング・オン」はイントロ直後の序奏パートがカットされるなど、スマッシュ・ヒットを意識したよりシンプルなアレンジで構成されている)
[モア・インフォメーション]
ヴァニラ・ファッジのデビュー・アルバム「キープ・ミー・ハンギング・オン」は、ビートルズの「涙の乗車券」 や「エリナ・リグビー」 、インプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ」(ジェフ・ベックとロッド・スチュワートのカバーでもお馴染み)など、当時のロック、ソウル・シーンを賑わせていたヒット曲を独自のアレンジで再構築する楽曲で構成され、グループの音楽上の特色をストレートに伝えるとともにアート・ロックとも呼ばれた彼らの創造性あふれるロック・サウンドを世に知らしめるヴァニラ・ファッジの代表作となった。
その後のヴァニラ・ファッジは「ザ・ビート・ゴーズ・オン」("The Beat Goes On"/1968年)や「ルネッサンス」("Renaissance"/1968年)といったアルバムを発表し、また、これらのアルバムからはドノヴァン作曲の「魔女の季節」などの話題曲が生み出される。しかしながら、通 算5枚目となるオリジナル・アルバム「ロックンロール」("Rock & Roll"/1969年)のリリース直後にフェアウェル・ツアーを敢行したヴァニラ・ファッジは、70年初頭にグループの解散を迎える。
なお、グループの中心メンバーであり、当時のロック界で最強のリズム・セクションとも評されたティム・ボガート(ベース)とカーマイン・アピス(ドラムス)は、ヴァニラ・ファッジの解散後にハード・ロック・バンドのカクタスを結成し、デビュー・アルバムの「カクタス・ファースト・アルバム」("Cactus"/1970年)をヒットさせている。
さらに、ボガートとアピスは、かねてから二人とのコラボレーションを熱望していたと言われるギタリストのジェフ・ベックと合体し、トリオ編成によるハード・ロックの傑作アルバム「ベック、ボガート&アピス」("Beck, Bogert & Apice"/1973年)を発表する。「ベック、ボガート&アピス」は全米アルバム・チャートの第12位 へランク・アップするヒット作となったほか、スティーヴィー・ワンダー作品のカバー・バージョン「迷信」などの名曲を生み出している。
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