Sergent Pepper's Lonely Hearts Club Band (1967)
楽曲紹介[1]
"Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band"
アップ・テンポのロックンロール・ナンバーでアルバムの幕が開けるが、同時にこの曲は、架空のバンドによるコンサートというアルバム全体のコンセプトを伝えるためのバンド自身のセルフ・イントロダクションを兼ねる。バック・コーラスにブラス・アンサンブルが重なる箇所では、使用されるスピーカーを変化させることで音の位相を動かし、サウンド全体の厚味とバリエーションの面白さを増すための録音技術上の工夫が凝らされている点にも注目したい。
ハード・ロック風のリード・ギターは、その特徴からもジョ−ジがプレイしたものとは考えにくいが、1989年にスタートしたポールのワールド・ツアー(1) においてこの曲が演奏された際に、ベースのパートをヘイミッシュ・スチュアート(20) に任せてポール自らがギター・ソロを弾いた事情からも、ポールがプレイしているものと推測すべきであろう。
"With A Little Help From My Friends"
ビートルズは、この曲で遂にリンゴの朴訥なボーカル・スタイルを生かしきるナンバーを生み出すことに成功した。そのヒントは、悠然と構えながらも深いビートを刻んでゆったりと進むリズム・セクションにあったと言えるが、とりわけその中心を為すものはモノトーンの深い表現力で曲全体に鮮やかな陰影を植え付けたポールのベース・プレイであろう。
また、2コーラス目からはリード・ボーカルとバック・コーラスが逆転した形でフレーズが動き始め、短いながらも2部構成のハーモニーを織りまぜるなど、音楽表現上のアイディアにおいても飽くことのない工夫の跡を覗かせている。
"Lucy In The Sky With Diamonds"
またしても自らの肉声に電気処理を施して特異な歌世界を作り上げたジョンの作品。この曲の特徴は、ボーカル・パートのみならず、3拍子と2拍子のパートを交互に繰り返す作品全体の構造やキーボードを中心とする極彩色のようなサウンド・アレンジに求められるが、それと同時に、曲の進展とともに大胆なリズムの変化をもたらすポールのベース・プレイについても高く評価せざるを得ないだろう。ジョンのボーカル・パートのみでは、楽曲としてのこれほどの展開力を生み出すに至らなかったのでは、とも思えるからである。
エンディングに至って顕著となるジェット・サウンドのようなドラムスのトラックに象徴されるように、サイケデリックな演出への意欲がとりわけ強く表出された作品の一つと言えるだろう。
"Getting Better"
リズム・セクションに大きな特徴を感じさせるポールのナンバー。作品そのものは、ポールのボーカルと、力強くビートを刻むリズム・ギター及びドラムスによって構築されるが、この曲においても大きな聴きどころはポールのベース・プレイである。モノトーンの深い表現力を携えたポールのベース・ギターが生み出す多彩なフレーズとリズム感は、もはや単なるベース・ラインとは呼べないほどの存在感を獲得している。
なお、ミドル・パートでは、ドラムスのトラックに対してやや遅れ気味のテンポでハンド・クラップが入るが、この遅れ方がいわゆるブルースのようなリズムのタメを生み出す打ち込みではなく (リズム・ギターのシャープさにもこの一因は求められる)、このナンバーのタイトなリズム感を損なわないぎりぎりの線を狙いながら敢えて遅れ気味に打ち込まれるのだから、本当に芸が細かいと言わざるを得ない。しかも、曲の後半に入るとハンド・クラップのパートにはパーカッションが重ねられ、リズムのみならずサウンドの表情そのものが大きく変わっていく。レコーディングに十分な時間が与えられていたとは言え、細部までの気の配り方が過去のアルバムとは桁違いということを改めて実証するナンバーの一つである。
"Fixing A Hole"
ポール自らが奏でる美しいチェンバロのイントロによって導かれるポール・マッカートニーのナンバー。このアルバムに収録された楽曲の中では例外的と言えるほどにシンプルなアレンジによって構成され、前作までのレコーディングにおいても十分に可能と思われる演奏形態によって録音されたナンバーと言える。なお、アルバムの日本語解説によると、この曲のリード・ギターはポールが弾いたと紹介されているが、フィンガリングの特徴からはジョージのプレイである可能性が高く、「ビートルズ全曲解説」においても著者のジョン・ロバートソンは「ジョージのリリカルなギター・ソロ」が素晴らしいと批評している。
"She's Leaving Home"
ハープとストリングスを駆使したクラシカルなアレンジによってその美しさを引き立てられたポールのバラッド・ナンバー。表向きはクラシック風の優雅な作品だが、"Yesterday" の時と同じくポールのリード・ボーカルは、芯の通った力強さを最後まで失うことなく甘美なストリングス・アレンジに対峙し続けている。
また、この曲はポールのバラッド作品にしては珍しく、完全にナレイティブな物語詩として具体的なイメージを連続して想起させる歌詞によって構成されるが、ジョンのコーラスが風刺的に挿入される箇所においてのみ、ポールのリード・ボーカルがシングルトラックからダブルトラックへ変化することで、風刺的なパートとその他の物語部分との差異をサウンド面 においても明確化している。
ジョン・ロバートソンは、その著作「ビートルズ全曲解説」において、「リアリズムを感じさせるジョンの掛け合い」があったからこそこの曲の甘さを切り抜けられたと述べているが、逆に、ジョンの説教めいたコーラスが入って来なければ、この作品はロマンシズムをたたえた叙事詩として完結することでより深い余韻を残したのではないかとも思うのである。
"Being For The Benefit Of Mr. Kite!"
サーカスのポスターを見て作曲したと伝えられるジョンの作品。2拍子でスタートする主題部分は、シンバルの裏打ちを効果 的に用いたリズム・トラックにやや風変わりな印象を受けるものの、アレンジそのものが際立って異色というわけではない。それがリズム・チェンジしてワルツへ変化した後の中間部へ移ると、一転してキーボードのサウンドが幾重にもかさねられるなど摩訶不思議とでも言うほかない独自の音世界を作り上げる。
再び主題へ戻る時のつなぎ目だけで使われるピアノ・コードの1プレイも不可解だが、再登場した主題部分は、その後半からあたかも万華鏡のごとき複雑なサウンド・コラージュを形成しながらその勢いのままに曲のエンディングに向かって一気に突き進んでいく。ポスターにヒントを得た絢爛たるビジュアル・イメージをいかに聴覚イメージの中で再構築すべきかというテーマの追求が、結果 として、このように特異なサウンド・ワールドを創り出したと考えるべきであろうか。
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