ビートルズ特集


Sergent Pepper's Lonely Hearts Club Band (1967)

楽曲紹介[2]

"Within You Without You"

 アルバム中、唯一のジョージ・ハリスン作品。レコード・コレクターズ増刊「ザ・ビートルズ コンプリート・ワークス2」(株式会社ミュージック・マガジン) の中で、インド音楽の専門家である井上貴子氏が、この曲について「サウンドの効果 はインドそのもののように聞こえるのに、最後の一線でわざとインド音楽の重要なポイントをはずした所に、ジョージの工夫のあとを感じる」とコメントされていることは、ラーガ・ロックへ取り組むうえでのクリエイターとしてのジョージの気概を感じさせるようできわめて興味深い。

 それにしても、このアルバム全体におけるジョージの存在感はあまりにも希薄である。グループのリード・ギタリストであり、また、ソングライターとしても目覚ましい成長を遂げつつあったはずのジョージの自尊心は、この1曲のみのレコーディングによって本当に満たされていたのであろうか。

"When I'm Sixty-four"

 ジョンへの対抗意識があったためとも思えないが、録音テープの音程を半音も上げることで声変わりしたような奇妙な効果 を生み出したポールの作品。テープ操作によって軽快さを増したかのように聴こえるポールのボーカルと曲全体を形作るクラリネットの音色が、この作品のノスタルジックな雰囲気を見事に醸し出している。

 ポールのベースは相変わらず能弁に曲の展開を物語るが、あわせてポール自らがプレイするピアノのパートや、控えめにバックグラウンドを引き締めるリズム・トラックなど細かなアレンジにも工夫の跡が十分に感じられるナンバーである。

"Lovely Rita"

 ギターとピアノ、続いてコーラス、ドラムス、ベースの順でサウンドを重ねるシャープなイントロがまず聴き手の耳を奪うが、前曲 "When I'm Sixty-four" のノスタルジックなムードに続いて登場するだけに、その鋭さがいっそう引き立てられているように感じられる。このアルバムのリリース時に、イギリスのマスメディアは「すべての曲がつながっている」という表現でその驚きを伝えたと言われるが、現実にすべての曲が絶え間なく流れるわけではないにもかかわらずそのようなインパクトを与えた背景には、この曲のイントロが感じさせるような各ナンバーの配置の妙があったと言えるだろう。

 なお、この曲の特徴は、壊れかかったメタリック・サウンドのようなリンゴのドラムスと、ジョージ・マーティン(3) とポールによるそれぞれの個性を生かしたピアノの競演に求められるが、とりわけ、トラディショナルなスタイルで流麗なソロをつま弾くジョージ・マーティン(3) とメランコリックな旋律を響かせるポールの対比はこの曲の聴きどころの一つである。

"Good Morning Good Morning"

 ユーモラスなニワトリの鳴き声でスタートするジョンのナンバー。曲はマーチ風のコーラス・パートからジョンのリード・ボーカルがスタートする主題へと引き継がれるが、この主題部分においてはサウンド・インコーポレイテッドによるブラス・セクション (サックス、トロンボーン、フレンチ・ホルンによる構成) が大胆にフィーチャーされている。

 その後、一時的に8分の6拍子へ変化するリズム・チェンジや、ポールによるディストーションを効かせたシャープなギター・ソロを交えながら、この曲はあまりにも有名な食物連鎖をもじったSEによるエンディングへと突入していく。最後に聴こえる動物の吠え声が、そのまま次の曲のエレクトリック・ギターによるイントロへかぶさっていく曲間のつなぎは見事と言うほかない。

"Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)"

 アルバムの最初と最後に同じ曲を配するというポールのアイディアは、ハリウッド風ミュージカルの影響を受けたものだと言われる (ジョン・ロバートソン著「ビートルズ全曲解説」より)。加えて、この曲は、どちらかと言えばゆったりしたリズムの楽曲が続く「サージェント・ペパーズ」の中で、その終盤に至ってアップ・テンポのタイトなリズム感を再び登場させることによりアルバム全体の印象を引き締めるという重要な役割をも果 たしている。

"A Day In The Life"

 アコースティック・ギターとピアノの伴奏によって静かな立ち上がりを見せるこの曲は、マラカス、ベースが加わった後の2コーラス目からリンゴによるドラムスのパートがスタートすることでその印象をきわめてシャープなものへと急変させる。

 ジョンの作曲パート (ジョンがリード・ボーカルを取る部分) は、基本的にピアノの弾き語りに近い構成を取り、その意味ではソロ時代のジョンの人気ナンバーである "Love""Imagine""Jealous Guy" などの原点にあたる作品と言えなくもない。しかしながら、美しいピアノのフレーズに乗せて優しくささやくようなバラッドを歌うソロ時代のナンバーに対し、この曲の印象はあまりにも力強く、かつ、タイトである。ライブ活動を停止したとはいえ、当時のビートルズが紛れもなくロックンロールをプレイしていたことを改めて感じさせるナンバーと言えよう。

 曲がポールによるミドル・パートへ進むと一転してノーマルな日常生活が歌われるが、1本のタバコをきっかけに聴き手は再びシュールな世界へと誘われていく。この部分をつなぐジョンのコーラスが遠くから切れぎれに聴こえるような演出は劇的効果 が満点である。

 曲は再びジョンのボーカル・パートへ戻り、フル・オーケストラの終わりなく上昇し続けるスパイラルを経て突然に解き放たれたかのようなピアノの1コードによる終幕を迎える。聴き手に戦慄をおぼえさせるようなアルバムの幕切れは、ロック史上を見渡しても他の例を思いつかない。

  以上 「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」終わり

 

 注) アルバムの日本語解説のほか、以下の文献を参考にしている。
・マイルズ編/吉成伸幸訳「ビートルズ伝説」(1986年)
・ジョン・ロバートソン著/丸山京子訳「ビートルズ全曲解説」(1994年)
・レコード・コレクターズ増刊「ザ・ビートルズ コンプリート・ワークス2」 株式会社ミュージック・マガジン (2000年)

 

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