タイトル | 耳こそはすべて |
著者 | ジョージ・マーティン |
訳者 | 吉成伸幸、一色真由実 |
発行 | 河出文庫 1992年 |
ビートルズのオリジナル・アルバムのプロデュースに携わってきたジョージ・マーティンは、その貢献度の大きさから5人目のビートルと呼ばれている。
本書は、ジョージ・マーティン自らが書き下ろした自身の半生記であり、ビートルズとの深いかかわりやEMIのプロデューサーとして過ごした日々を、如才なく、かつ、ユーモアにあふれた文章で綴った自叙伝である。(ジョージ・マーティンのキャリアについては「ビートルズ関連用語集(3)」をご参照いただきたい)
本書の読みどころは、主に以下の2点にまとめることができる。
第一に、ビートルズのアルバム制作を裏方として支えたジョージ・マーティンならではのレコーディングに関する興味深いエピソードである。
一般に、ジョージ・マーティンのプロデューサーとしての貢献度が最も大きいアルバムは「サージェント・ペパーズ」と言われている。実際にこのアルバムは、メンバーの作曲、演奏能力にとどまらず、アルバム全体を貫くコンセプトとこれをサウンド面 で支える複雑なアレンジが魅力の作品だが、ジョージ・マーティンにとってもこのアルバムが自らのプロデュース歴の中で最も誇れるべき作品であることは疑いがない。
本書において、「サージェント・ペパーズ」に関する記述は「ペパー軍曹の進撃」と題する独立のチャプターとして登場し、ジョージ・マーティンはこの章の中で幾つかの個別 の曲についてそのレコーディング時の工夫の数々を明かしている。特にジョン・レノン作曲の "Being For The Benefit Of Mr. Kite!" について、この曲の中で音の万華鏡のごとく展開する複雑なサウンド・コラージュを生み出すために、通 常では考えられないようなアイディアが試みられる様子は多くの読み手を驚かすに十分なものであろう。
第二の読みどころとしては、ビジネスとアートの狭間に立つプロデューサーとしての苦悩を挙げることができる。アーティストとしての自らの才能がもたらす莫大な金額を手にするビートル・メンバーとは対象的に、巨大なレコード会社の一従業員に過ぎないプロデューサーに与えられる成功の分け前はあまりにも小さい。
また、それ以上に、レコード制作をビジネスとしての側面のみから捉え続けるレコード会社の経営陣への不満や、彼らとの見解の相違がもたらすフラストレーションの大きさなど、業界の実情を知らない人間にとっては大きな驚きであるとともに、プロデューサーとしての立場が抱えるポジショニングの難しさを考えさせられる。
ジョージ・マーティンは、自らが運営するエアー・スタジオの開設によって巨大資本のロジックから独立して活動しうるポジションを遂に勝ち取るが、芸術面 での欲求の満足がビジネスとしての成功を確約するわけではない。本書の最終章のタイトル「トゥモロー・ネバー・ノウズ」が告げるとおり、将来のことは誰にもわからないのである。
なお、本書の原書は、"All You Need Is Ears" のタイトルで、1980年にイギリスのクイックフォックス社からその初版が発行されている。
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