ビートルズ特集


[その他]-2




タイトル ビートルズになれなかった男
著者 高尾栄司著
発行 光文社文庫 1992年

 ビートルズについて書かれた書物は無数にあるが、ピート・ベストに焦点を当てたものは少ない。ピートは言うまでもなくビートルズの初代ドラマーだが、レコードデビューの直前になってリンゴ・スターと交代させられている。このメンバー交代劇は、ビートルズの歴史上、唯一の汚点とも呼ばれ、興味を持って語られることが多い反面 、その本質を突く資料についてはほとんど見かけたことがない。

 本書は、国際ジャーナリストとして活躍中の著者が、2年以上の歳月をかけてピート・ベスト本人とその周辺人物たちの心を解きほぐし、直接のインタビューを含む綿密な取材の成果 をまとめあげることで完成したピート・ベスト・ストーリー、あるいは、知られざるビートルズの裏面 史とも言うべきものである。

 著者は、最初に自身がビートルズのファンではないこと、及び、ビートルズについて詳しい知識を持つ人間ではないことを断わっている。このことが、興味本位 のマスメディアに対して頑なに取材を拒否していたピートの心を開くきっかけの一つになったであろうことは想像に難くない。反面 、賞賛に値すべき丹念な取材の積み重ねによってピート・ベスト交代劇の真相に迫りながらも、ピート本人への心情的な肩入れとともに、知られざるビートルズの裏面 に光を当てたいというジャーナリスト特有の気負いが一因となり、結果として最終的な結論を導き得なかったことの背景には、著者のビートルズに対する理解力の至らなさがあったように思われる。

 ピート・ベストが最後までマッシュルーム・カットを拒否したという事実は、ある意味で彼が他のビートルとは異質の人間であることを象徴している。著者の丹念な取材がビートル・メンバーとしての彼の異質性を描き出すことに成功しているにもかかわらず、著者自身がそのことに気付いていない理由は、本人の視点がピート側に片寄り過ぎることによって、ビートルズ側の視座が抜け落ちてしまった点にこそ求められる。

 本書に対する評価は、ビートルズの外伝的なバイオグラフィとしての側面 からではなく、二度の自殺未遂に追い込まれるまでに挫折した人間が、自らの人生に意義と幸福を再び見い出すまでの個人史としての側面 から捉えられるべきかもしれない。

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