ロック名曲セレクション


セイル・アウェイ
  ランディ・ニューマン

なごみ
ダンス
ソウル

原題 Sail Away
リリース 1972年
作詞・作曲 ランディ・ニューマン
プロデュース レニー・ワロンカー、ラス・タイトルマン
演奏時間 2分56秒
収録アルバム 「セイル・アウェイ」(リプライズ/1972年)
ミュージシャン ランディ・ニューマン(ピアノ、ボーカル)、エミール・ニューマン(オーケストラ指揮)


[レビュー]

 ランディ・ニューマンは、寡作な音楽家でありながら、ユーモアと諷刺に満ちたユニークな作風の楽曲で知られ、60年代終り頃からのアメリカのロック・シーンに個性あふれる独特の足跡を残してきたソングライターである。

 ランディは、1944年、米国南部のニューオリンズに生まれる。ライオネル・ニューマンとエミール・ニューマンの二人の叔父が高名な映画音楽の作曲家という音楽的に恵まれた環境のもとで育ったランディは、7歳でピアノを学び始め、また、わずか17歳にしてカリフォルニアの音楽出版社とスタッフ契約を結んでプロの音楽家としての第一歩を踏み出す。

 その後、作曲活動と平行してUCLAの音楽学位の取得を目指していたランディだが、親友でワーナー・ブラザースのプロデューサーでもあるレニー・ワロンカーに誘われて大学の卒業を断念。ワーナー傘下のリプライズと契約してデビュー・アルバムの「ランディ・ニューマン」(1968年)をリリースする。

 独特の諷刺に満ちた語り口で綴られるランディの作風はすでにデビュー・アルバムにおいて確立され、メジャー・ヒットこそ生まれていないものの、アルバム「ランディ・ニューマン」は批評家からの高い評価を受けた。そして、その後も優れたクオリティのアルバムを発表し続けたランディ・ニューマンは、1972年に通 算4枚目のアルバム「セイル・アウェイ」をリリースする。

 本ナンバー「セイル・アウェイ」は、アルバム「セイル・アウェイ」の表題作であるとともに、 情景を描く旋律の豊かさやスケールの大きな管弦楽オーケストラを駆使するアレンジの美しさ(オーケストラを指揮するエミール・ニューマンは映画音楽の作曲家として知られるランディの叔父)、また、ランディ作品に特有の深い寓話性などから、ランディ・ニューマンの代表作に数えられるナンバーの一つである。

 曲は、ランディ自らが演奏するピアノ伴奏を従え、ピアノの弾き語り風の展開を見せる。イントロのフレーズでは管楽器のアンサンブルがボーカル・ラインをサポートし、また、その他の曲の大半では大規模な管弦楽オーケストラが雄大で華麗な旋律を奏でて曲全体の美しさを引き立てる。

 なお、この曲の歌詞は、黒人を乗せてアメリカへ向かう奴隷船の中で、白人が黒人たちに向かってアメリカでの夢のような生活の素晴らしさを言い聞かせるものだが、旋律やサウンドの美しさが際立つがゆえに、歌われる内容の欺瞞性がその底の深さをより無気味に感じさせるというシニカルな効果 を生み出している。

 ランディ・ニューマン作品の魅力は、表向きのサウンドの特徴だけで十分に捉えられるものではなく(特に作品としての寓話性や諷刺としての面 白さなど)、また、歌詞の日本語訳ではそのニュアンスが十分に伝わらないことから、英語という言葉の壁に直面 する日本人リスナーにとってランディが理解しづらい音楽家であることは事実だと思う。

 反面、個々の作品が持つ意味の深さゆえに、一度、その魅力に捕らえられるとこれほど深みにはまるミュージシャンもいない。本ナンバー「セイル・アウェイ」は、ランディ・ニューマンの代表作であるとともに、その魅力をより深く知るための格好の入門書的ナンバーとも言えるだろう。

 

[モア・インフォメーション]

 ランディ・ニューマンは、同時代の他のソングライターたちがボブ・ディランに代表される自己告白的なメッセージ・ソングへ向かうなかで、そのトレンドに背を向けて独自のストーリー性とユーモア、また、深い批評性を盛り込んだソング・ライティングを追求することで作曲家としての特異なポジションを作り上げた。

 そして、アルバム「セイル・アウェイ」もこの例に漏れず、このアルバムには表題作のほか、社交界を皮肉った「サイモン・スミスと踊る熊」や核大国の身勝手さに触れた「ポリティカル・サイエンス」など、ランディ・ニューマンのソングライターとしての魅力をストレートに伝える代表作が並んでいる。

 なお、その作風の特異性のゆえか、ランディ・ニューマンの作品は他のミュージシャン仲間によってカバーされる機会が多い。ランディの代表作の一つでもある「ママ・トールド・ミー」はスリー・ドッグ・ナイトによってカバーされ、このカバー・バージョンは1970年に全米チャートの第1位 を獲得するミリオン・ヒットとなった。また、ジュディ・コリンズやジョニ・ミッチェルらの女性シンガーが「悲しい雨が」をカバーしているほか、前記の「サイモン・スミスと踊る熊」がハーパース・ビザールに、さらには「リヴィング・ウィザウト・ユー」がニッティー・グリッティー・ダート・バンドによってカバーされている。

 また、ニルソンのアルバムの中には「ニルソン・シングス・ニューマン」(1970年)というランディ・ニューマン作品だけで構成されるカバー・アルバムがあるので、ぜひ一聴をお薦めしたい。最後になったが、本ナンバー「セイル・アウェイ」のカバー曲としては、リンダ・ロンシュタットがアルバム「ドント・クライ・ナウ」(1973年)の中で発表したカントリー調のアレンジによるカバー・バージョンを挙げておきたい。

 ・関連ページ ランディ・ニューマンのリンク集

 

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